現代医療において人工血管は、生命予後やQOLを左右する「血流の再建」を担う基盤技術として極めて重要である。冠動脈・末梢動脈疾患に対するバイパス術、血液透析用シャント、動脈瘤や大動脈疾患の人工血管置換など、循環器外科から腎臓・血管領域まで適応は広く、低侵襲治療の発展とともに需要は増大している。
一方で現行の人工血管には、血栓形成や吻合部内膜肥厚による狭窄、感染、長期耐久性の限界といった課題が残る。特に小口径血管では開存率が十分でなく、抗血栓性と内皮化、適切なコンプライアンス(弾性)や血流応答性を同時に満たす設計が難しい。
申請者らはiPS細胞より作製した人工血管の社会実装を進めているが、このためには生体適合性の高い素材と合わせた人工血管の確立が不可欠である。本研究ではiPS細胞由来3D血管と親和性があり生体適合性の高い人工血管素材を開発する。
人工血管に適した素材として1) 細胞成分と親和性が十分にあること、2) 強度を保持できる点がある。このため、キトサンやアルギン酸やGelMA(ゼラチンメタクリレート(光架橋ゼラチン))、ゼラチンなどを活用した。また生体吸収性はないがシリコーンなども応用し、人工血管に有用な素材を確立することができた。
本研究の成果により、血管狭窄疾患に対して、従来の治療であるステントや人工血管による再狭窄・閉塞を抑えた血流再建が可能となり、QOLの改善、生命予後の改善が期待される。再治療・再入院の減少は医療費・介護費の抑制にも直結し、社会的便益も大きい。加えて近年、幹細胞を用いた再生医療は心臓、肝臓、腎臓、膵臓など多臓器で進展しているが、いかなる臓器も機能発現には血管網が不可欠である。生体適合性が高く機能性を備えた血管が確立されれば、移植・再生組織への迅速な灌流と長期生着を支える“共通基盤”となり、臓器再生医療全体の完成度を飛躍的に高める波及効果が期待される。