東北大学

東北大学大学院医学系研究科
腎・膠原病・内分泌内科学分野
東北大学病院 腎・高血圧・内分泌科

研究グループ紹介

~新たなる発見、最先端の医療をめざして~

高血圧グループ

 普段我々が向き合っている患者さんは細胞レベルから社会的な要因まで様々な問題を抱えています。患者さんが現在苦しんでいる症状に寄り添い治療することは第一ですが、その原因を考えて新たな病態機序の解明や治療法の開発を行うことは我々の使命です。
 患者さんの抱えている様々な問題を理解し、新たな治療を届けるために我々は基礎研究から臨床研究まで幅広く研究に取り組んでいます。研究範囲も細胞レベルではミトコンドリアや小胞体、組織レベルでは腎臓、血管を中心に腸内細菌、心臓、筋肉や神経、臨床レベルでも高血圧、慢性腎臓病、動脈硬化、代謝疾患など多岐に渡ります。基礎と臨床の架け橋となるiPS細胞技術も用いて病態解明や治療法の開発を進めています。
 下記に研究の一部を紹介します。

1) ミトコンドリア機能低下に関連した病態解明と治療法の開発

 尿毒症患者の血中の腎不全物質を解析する過程で、ある種の内因性インドール化合物群にはATP産生亢進作用があることを見いだし、その化合物誘導体ライブラリーをスクリーニングした結果、ミトコンドリア病患者の皮膚線維芽細胞の生存率を上昇させ、細胞内ATPを増やし、酸化ストレスも減少させる新規薬剤化合物「MA-5 (=Mitochonic anid-5)」を同定しました(現在第Ⅰ相臨床治験中)。ミトコンドリア機能異常はいわゆるミトコンドリア病に限らず慢性腎臓病、糖尿病、代謝・変性疾患、老化など様々な病態に関与していることが知られています。我々はミトコンドリアと腸内細菌が協奏してヒトの健康を調節する「ミトコンドリア・腸内細菌連関」を網羅的・統合的に解析することでその制御メカニズムを明らかにするとともに、ミトコンドリア機能の非侵襲的な診断法と新たな治療薬を開発しています(図1ムーンショット型研究開発事業:https://www.mitomoonshot.med.tohoku.ac.jp)。

図1
図1 ムーンショット型研究開発事業

2) 内因性動脈硬化防御機序に着目した新規動脈硬化治療法の開発

「人は血管とともに老いる」というWilliam Oslerの名言がありますが、動脈硬化は脳心虚血疾患や慢性腎臓病の原因になります。従来の動脈硬化に対する治療法は高血圧、糖尿病、脂質異常症などの動脈攻撃因子を軽減する治療が主体でしたが、我々は同様の動脈硬化リスク因子を有する患者でも動脈硬化になりやすい人となりにくい人がいる点に着目し、両患者群からiPS細胞を作製して誘導した血管細胞を調べました。その結果、動脈硬化になりにくい患者の血管平滑筋の小胞体ではAADAC(Arylacetamide deacetylase)というリパーゼの発現が増強し脂質代謝変化を介して動脈硬化防御的に働いていることが明らかになりました(Cell Stem Cell 2020)。我々はAADACや小胞体機能の増強、臨床データや患者iPS細胞由来3D血管を用いて血流と動脈硬化の関連を解析し(図2)、患者自身が持つ動脈硬化防御因子を活性化する新たな治療法の開発を行っています(https://www.amed.go.jp/koubo/15/01/1501C_00043.html)。

図2 腎動脈の血流解析と3D血管
  • 図2 腎動脈の血流解析と3D血管
  • 図2 腎動脈の血流解析と3D血管

3) 腸内細菌、尿毒素をターゲットとした新規腎臓病治療法の開発

 腸内環境が腎臓病の病態に関与し、慢性腎臓病についても影響を与えていることが近年注目されています、我々はこの腎臓と腸管の臓器連関「腸腎連関」の解明に取り組んでおり、これまでに便秘症治療薬であるルビプロストンが腎機能の悪化に伴って変化する腸内環境を改善させることにより、体内の尿毒素蓄積を軽減させ、その結果腎臓の障害進行を抑制する効果があることや(JASN 2015)、腸内細菌由来尿毒症物質であるPhenol sulfateが糖尿病性腎臓病を悪化させる因子であること(Nature Communications 2019)を明らかにしています。この腸腎連関に着目した新規腎臓病治療薬の開発を行っています(図3)。

図3
図3

 上記の他にも近年着目されているフェロトーシス(脂質酸化細胞死)に関する研究など多くの研究を行っています。他科や国内外の研究室と積極的に共同研究を行っており、様々な研究手法で自らの臨床的疑問やアイデアを研究に発展させることができ、Nature誌やCell誌、その姉妹誌に発表するなど実績も豊富です。海外の研究室との交流も多く、メンバーは国際的に活躍しています。私たちの研究内容に興味のある方は気軽にお問い合わせください(豊原 )。

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