東北大学

東北大学大学院医学系研究科
腎臓内科学分野
東北大学病院 腎臓・高血圧内科

研究グループ紹介

~新たなる発見、最先端の医療をめざして~

内分泌グループ

 我々は、人間の血液中を流れる「ホルモン」について、日々、診療と研究を行っています。「ホルモン」と一言で言っても、我々の体内にはホルモンは数十種類以上存在しています。血液中を漂うホルモンの総量は、例として50mプールにスプーン1杯ほどと言われており、非常に微量ですが、そのホルモンのおかげで、心臓や脳、腎臓といった人体の臓器はそれぞれの”仕事”を円滑に進めることができ、全身のバランス(恒常性:homeostasis)を保っています。
 ホルモンは、適切な時に、適切な量が分泌されることが大切です。例えば、男性/女性ホルモンが不足すれば、疲れやすくなったり、太りやすくなったり、骨が折れやすくなったりします。逆に、それらのホルモンが過剰に分泌されることにより、体毛が増加したり、生理不順になったりと、体のバランスが崩れることになります。
 我々のグループでは、このようなホルモンバランスの崩れた状態、“内分泌疾患”を早期発見し、適切な治療を行えるように尽力しており、Newsweek誌が毎年発表している”World’s Best Specialized Hospital”の”Endocrinology”部門に2022年から2年連続で選出されています。しかしながら、“内分泌疾患”はその希少性、診断難易度から未だに見逃されることが多く、病状の進んだ状態で診断されることが少なくありません。そのため、我々は「診断手法の発展・開発」を目標に、日々の臨床を通じて、研究・検討を重ねています。

1)副腎疾患

 我々のグループの副腎研究は、1956年に当時の第2内科教授・鳥飼龍生先生が原発性アルドステロン症の本邦第1例目(世界では第2例目)を診療され、その結果を報告されたことから始まっています。副腎は長径4cm程度の臓器であり、アルドステロン、コルチゾール、カテコラミンなどのホルモンを分泌して、血圧・糖脂質代謝を維持しています。

・原発性アルドステロン症

 原発性アルドステロン症(PA:primary aldosteronism)は、「国民病」である高血圧症の5-10%を占める内分泌性高血圧症であり、一般的な高血圧症と比較して心筋梗塞、脳梗塞の合併率が数倍高いとされます。健康寿命延伸のためには、この心血管疾患の発症リスク低減が不可欠であり、PAの早期診断・治療のため、我々は継続的に PA診断手法の精緻化に取り組んでいます。以下の示す先進的な研究により、本邦でも有数のPA診療を実践でき、近年では国内は北海道から沖縄まで、そして諸外国から世界有数の紹介を受けています。
 PAの診断における重要事項は、1)PA存在診断(PAの有無の診断)、と、2)PA病型診断(PAの原因の診断)の2つに分かれます。はじめに、我々のグループでは、PA診断に不可欠であるレニン、そしてアルドステロンを正確かつ迅速に測定する手法を企業と共同開発し、より多くの施設でPAのスクリーニング検査が実施できるような環境づくりを行いました。この測定手法は国内外の学会で高く評価され、世界的に注目を集めています。続けて、PAの治療には正確な原因診断が重要です。我々のグループは以前より、当院放射線診断科、病理部と共同で原因診断手法の改良を行い、副腎分支静脈のサンプリング(S-AVS:segmental AVS)、アルドステロン合成酵素の免疫組織化学染色を用いた病理診断手法を確立しました。
 我々のグループは、国際共同研究で、PAで最も多い病型である特発性アルドステロン症(IHA)の病態と遺伝子変異を世界で初めて国際雑誌に報告し、大きな反響を呼びました。この成果は新たな治療法の開拓につながるものと評価され、世界各国や病理学のガイドラインにも引用されるなど、今なお、PA研究の礎の一つとみなされています。
 更に、最近では副腎静脈サンプリングによる診断プロセスを、診断の正確性を保持したまま簡略化できるよう、血中バイオマーカーの検討も進めています。手術適応となるアルドステロン産生腫瘍を有する患者さんを効率的に発見できるよう、同腫瘍に特徴的なステロイドプロファイル、特に18-オキソコルチゾール(18-oxocortisol)の血中濃度を測定し、患者さんが迅速に治療を受けられるような工夫を検討しています。
 また、治療の面では、標準的治療法である手術治療を精力的に進めています。他院で難渋した患者さんなど難しい症例の治療方針決定時には、泌尿器科や放射線診断科との合同カンファレンスで一例一例、診断から副腎静脈サンプリングの結果から術式に渡るまで詳細に検討し、患者さんにとって最も有益かつ安全と思われる方法を多職種で考えています。泌尿器科の手術入院中も診療録を連日確認し、術後のホルモンバランスの変化を確認し投薬調整を行なっています。
 加えて、放射線診断科との共同研究として、PAの原因となるアルドステロン産生腫瘍を局所麻酔下にラジオ波で焼灼する経皮的ラジオ波焼灼術を初めて保険収載することに至りました。すでに多くの患者さんが経皮的ラジオ波焼灼術を受けていただいています。有効性と安全性という面からは標準治療である手術治療が第一選択ですので、患者さんのご病状に応じて最適な治療法を選択できるようにご相談しています。また、副腎静脈サンプリングで使用するカテーテルを焼灼カテーテルに置き換えて、副腎腫瘍を副腎血管の中から焼灼する経静脈的ラジオ波焼灼術も世界で初めてヒト治験に無事成功し、新たな治療法の確立に向けて大きな一歩を踏み出しました。
 こうした診療および研究において、臓器や体の中でどのようなことが起こっているのかをリアルタイムに理解している我々のような内分泌内科医の存在は、診断および治療のどの場面でも欠かせない存在です。うまく行くか分からない研究の目的のために患者さんに不利益を被らせるわけにも絶対にいきません。そのため、動物実験やヒト治験、当局との審議など全ての場面で我々も必ず参加し、患者さんに安全かつ確実な診療を提供することを第一に心がけています。
 放射線診断科、泌尿器科、病理部とも定期的に院内の勉強会を開催し、それぞれの専門分野の最先端の知見を持ち寄って意見交換会を行なっています。東北大学病院として今の患者さんにより良い診療を提供し、かつ、新たな研究のディスカッションを行うことで将来の患者さんにさらに良い診療を提供できるように、診療と研究が一体となった風通しの良い関係を構築しています。

・クッシング症候群と褐色細胞腫

 原発性アルドステロン症に加え、副腎疾患には(サブクリニカル)クッシング症候群や褐色細胞腫といった、高血圧症・糖尿病を呈する手術治癒可能な腫瘍性疾患が含まれます。我々のグループでは、放射線診断科と共同でCT/MRI検査を用いた原疾患および合併症の新規評価方法を開発し、日々の臨床に役立てています。
 また、「腫瘍化」という観点から、病理部と共同で各副腎腫瘍におけるホルモン合成酵素および蛋白発現を解析し、臨床パラメータとの関連性や予後予測因子について検討を進めています。さらに、近年では、特に褐色細胞腫において遺伝性疾患が一定の割合を占めることが明らかとなり、当院遺伝科と共同でその検査体制の構築を行っています。

2)骨代謝疾患、副甲状腺疾患

 骨粗鬆症は生命予後を悪化させ頻度も高い重要な疾患ですが、自覚症状に乏しいことも多いため見逃されがちであり、かつ、発見されたとしても骨粗鬆症の原因検索まではたとえ専門診療科でも十分に行われていないのが現状です。
 骨粗鬆症は、多くの内分泌疾患(下垂体、副甲状腺、甲状腺、副腎、性腺など)に合併し、糖尿病や高血圧症の結果として生じる慢性腎臓病にもしばしば合併しますので、私たちは自覚症状がなくても見逃さないために積極的に検査を行なっています。
 また、骨粗鬆症の治療は原因に応じた治療が必要ですが、原因に基づいた治療法選択が必ずしもなされていないことが多いのも事実です。例えるならば、目が見えにくくなった方に原因検索をせずにメガネを処方しているようなものです。白内障、緑内障、網膜剥離など、視力低下の原因に応じた治療が必要です。骨粗鬆症も同様です。骨粗鬆症の原因としては、加齢や遺伝といった原因それ自体を治療することが難しい原発性骨粗鬆症と、原因自体を治療することが望まれる続発性骨粗鬆症に分かれます。後者の原因として、内分泌疾患は代表的なものです。何年も薬を飲んだり注射をしているにもかかわらず骨粗鬆症の改善がみられない方に多いですが、重要なことは何年も経過してしまう前に原因をきちんと見つけ出し適切な治療を施すことです。
 特に副甲状腺疾患(原発性副甲状腺機能亢進症)は頻度も多く、副甲状腺の手術摘除により骨粗鬆症の治癒が期待されます。内分泌グループでは、宮城県内はもとより東北各県や北関東からも年間数十例を超える患者さんを受け容れている実績があります。治療は手術治療になりますが、甲状腺・副甲状腺外科の先生方とも密に連携して院内の窓口を一本化したり、外科や遺伝科などとも連携して副甲状腺術式を決める際に重要な多発性内分泌腫瘍症のスクリーニング方法を指針に基づいて統一したりするなど、見逃しや見落としがないようなシステムを確立しています。

3)その他の内分泌疾患

 もちろん、ホルモンを分泌する“内分泌臓器”は副腎だけではありません。体内のホルモン分泌に司令塔的な役割を果たす“視床下部・下垂体”をはじめ、甲状腺・副甲状腺、膵臓、性腺(精巣・卵巣)も重要な内分泌臓器です。下垂体は多数のホルモン分泌臓器で、先端巨大症やクッシング病、中枢性尿崩症をはじめとする多種多様な病態の診断と薬物治療を積極的に行っており、特に成人成長ホルモン分泌不全症患者さんへの薬物補充療法については国内有数の施設となっております。病態によっては世界最先端の下垂体外科専門病院と連携して手術根治を行っております。
 また、症例数の多い甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病など)や、最近では手術あるいは薬物療法後のホルモン分泌不全の患者さんも増加傾向にあります。患者さんの診療を通して、新たな知見を学びながら、数々の症例報告、臨床研究を行っています。

 以上は我々の研究・診療の一部となります。上記の他にも、現在進行中の研究や臨床治験も複数あり、副腎疾患を中心に臨床に役立つ知見を得られるよう励んでいます。また、国際共同研究も数多く参加しており、最近ではLancet Diabetes & Endocrinology誌などに掲載されています。特にミシガン大学との連携は強固であり、グループメンバーの殆どが同大学へ留学経験があります。内分泌グループの研究・診療に興味のある方は、ぜひ気軽にお問い合わせいただければと思います。

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